日本の暦

カレンダーをよく見ると、立春や春分、夏至といった旧暦にもとづく暦が記されていることがあります。これらの暦は単なるカレンダー上の印ではなく、季節の移ろいや行事の気配をそっと知らせ、日々の暮らしに小さな豊かさを添えてくれます。カレンダーをめくるたびに四季の美しさや旬の習わしに気付かせてくれ、日常に彩りとリズム生まれます。

二十四節気（にじゅうしせっき）

五節句（ごせっく）

五節句とは、古代中国の陰陽五行思想がもとになった、日本の伝統的な節目の日のことで、江戸時代には公式の祝日として大切にされてきました。季節の変わり目にあたる5つの日を特別な節目とし、邪気を払ったり、無病息災や子孫繁栄を願う行事が行われてきたそうです。

■ 1月7日：人日の節句（七草の節句）

人日の節句（じんじつのせっく）の「人日」は文字通り「人の日」と意味され、昔は人を大切にする日と考えられていたそうです。前年の厄を祓い、新しい年の幸福を願う日としても意識されていました。この日に食べる七草粥には「せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ」の七草が使われ、正月料理で疲れた胃をいたわるとともに、生命力のある草を食べて厄を祓う意味があったと伝えられています。

■ 3月3日：上巳の節句（桃の節句）

上巳の節句（じょうみのせっく）の上巳とは3月頭の巳の日（吉日）を指すとされます。女の子の健やかな成長を祈る日として広まり、現在では「ひな祭り」として親しまれています。旧暦の3月3日が桃の花の季節にあたるため、「桃の節句」とも呼ばれます。ひな人形を飾る時期は特に決まりはなく、立春から節句の少し前までに飾る家庭が多いようです。行事食としては、ひなあられや菱餅、ちらし寿司、はまぐりのお吸い物、甘酒などが知られています。

■ 5月5日： 端午の節句（菖蒲の節句）

端午の節句（たんごのせっく）は、男の子の成長を願う日として親しまれ、五節句の中で唯一、国民の祝日「こどもの日」と重なっています。「端午」は5月の初めの午（うま）の日を指し、中国では菖蒲湯に入って厄を祓ったとされています。「菖蒲」と「勝負」をかけて、男の子の健やかな成長に結びついたとも言われています。この時期には鯉のぼりや五月人形を飾る家庭もあり、行事食として柏餅やちまきが楽しまれます。柏の葉は、新芽が出るまで古い葉が落ちないことから「家系が絶えない」という縁起もあるそうです。

■ 7月7日： 七夕の節句（笹竹の節句）

七夕の節句（しちせきのせっく）は、織姫と彦星の伝説に由来すると考えられます。笹や竹に願い事を書いた短冊を飾る習慣が広まり、地域によっては飾りを川に流すところもあるそうです。七夕飾りは一夜限りとされ、前日に飾って当日に片付ける家庭もあります。行事食としてはそうめんが知られており、平安時代に食べられていた「索餅（さくべい）」という小麦菓子が原型になったとも言われています。

■ 9月9日： 重陽の節句（菊の節句）

重陽の節句（ちょうようのせっく）は、菊の花が見頃を迎える時期であることから「菊の節句」とも呼ばれてきました。中国では「9」が縁起の良い数字とされ、その9が重なることから「重陽」と名付けられたそうです。行事食としては、菊を浮かべた菊酒、栗ご飯、なす料理などが挙げられ、特に菊酒は長寿を願う飲み物として親しまれてきたと言われています。

雑節（ざっせつ）

雑節とは、二十四節気や五節句などの暦日の他に、季節の移り変わりをより適確に掴むために設けられた、特別な暦日のことです。

■ 節分（せつぶん）

本来は季節の分かれ目を意味し、立春・立夏・立秋・立冬の前日に行われていたそうです。現在では立春の前日（2月3日頃）が節分として知られています。豆まきは「魔を滅する」という意味が込められ「鬼は外、福は内」と唱えながら行うことで、家内安全や厄除けを願う習慣があるそうです。地域によっては、恵方巻きを食べたり、焼いたイワシの頭を飾ったりする風習も残っているそうです。

■ 彼岸（ひがん）

春分・秋分の日を中心にした前後3日間ずつ、合わせて7日間のことを指します。初日は「彼岸の入り」、中日は「中日（ちゅうにち）」、最終日は「彼岸明け」と呼ばれることがあります。「彼岸」は仏教用語で「悟りの世界」を意味し、現世の「此岸（しがん）」と対になると考えられてきました。昼と夜の長さがほぼ同じになることから、ご先祖さまを供養する風習やお墓参りやおはぎ（春はぼたもち）を食べる習慣が広まったそうです。

■ 社日（しゃにち）

春分や秋分に最も近い“戊（つちのえ）の日”を指し、年に2回あります。春は「春社（しゅんしゃ）」、秋は「秋社（しゅうしゃ）」と呼ばれ、土地の神さま「産土神（うぶすながみ）」をまつる日とされてきました。春は豊作を願い、秋は収穫に感謝する日として、社日祭やお供えが行われる地域もあるそうです。農作業の目安として意識されることもあったと言われています。

■ 八十八夜（はちじゅうはちや）

立春から数えて88日目にあたる日（5月2日頃）です。昔から種まきやお茶摘みの目安とされ、霜の心配が少なくなる頃と考えられてきました。「八十八」という数字は末広がりの意味もあり、健康や豊作を願う日として親しまれているそうです。

■ 入梅（にゅうばい）

二十四節気の「芒種（ぼうしゅ）」のあと、“壬（みずのえ）の日”にあたる日（6月上旬頃）です。この日を境に梅雨入りと考えられ、約1か月続く長雨の時期とされてきました。田植えのタイミングの目安としても大切にされ、雨の恵みや作物の成長を願う行事が行われる地域もあるそうです。

■ 半夏生（はんげしょう）

夏至から数えて10日目頃（7月2日頃）です。昔は「天から毒気が降る日」と言われ、この日を目安に田植えを終えるとされていたそうです。農村ではこの日を境に休耕日とする地域もあり、旬の野菜や魚を食べて無病息災を願う行事が行われることもあるそうです。

■ 土用（どよう）

立春・立夏・立秋・立冬の前の約18日間を指す暦です。この期間は土いじりを避ける風習があったと言われています。また、夏の「土用の丑の日」には鰻を食べる習慣があり、暑さで疲れやすい時期を元気に過ごす知恵として広まったそうです。

■ 二百十日（にひゃくとおか）

立春から数えて210日目にあたる日（9月1日頃）です。この時期は台風や強風が多く、農作物への被害に注意すると考えられてきました。そのため、農家にとっては「厄日（やくび）」とされ、各地で「風鎮祭（ふうちんさい）」など、風を鎮め豊作を祈る行事が行われてきたそうです。

■ 二百二十日（にひゃくはつか）

立春から数えて220日目にあたる日（9月11日頃）です。台風シーズンの最中にあたり、昔から農作物への被害に注意が必要と考えられてきました。二百十日と合わせて、農家にとっては天候に気をつける時期として意識されてきたそうです。

和風月名（わふうげつめい）

■ 1月：睦月（むつき）

1年のはじめの月で、親しい人と仲良く過ごす時期という考え方があります。正月に親族や友人が集まる様子から「睦び月（むつびづき）」とも呼ばれ、寒さの中で人とのつながりを大切にする月とされているそうです。

■ 2月：如月（きさらぎ）

寒さが続く時期で、衣を重ね着して春を待つことから名付けられたと言われています。「衣更着（きさらぎ）」が由来とされ、冬の終わりに向けて少しずつ春の準備を始める月とされているそうです。

■ 3月：弥生（やよい）

「弥」は“ますます”“いよいよ”という意味で「生」は草木が生い茂る様子を表します。木草弥生い茂る（きくさいやおいしげる、草木が生い茂る）月、春の息吹を感じて活動を始める月とされているそうです。

■ 4月：卯月（うづき）

卯の花が咲くことや十二支の4番目が「卯」であること、田に稲を植え始めることから「植月（うづき）」とも呼ばれることがあります。春の息吹を感じ、自然や農作業の準備に触れる月とされているそうです。

■ 5月：皐月（さつき）

田植えの時期にあたり「皐月」は早苗を植える月という意味で「早苗月（さなえづき）」と呼ばれることもあります。実りの準備を進める月として、農作業や自然の営みに触れる月とされているそうです。

■ 6月：水無月（みなづき）

今まで水の無かった田んぼに水を注ぎ入れる時期であることから「水月（みなづき・すいげつ）」「水張月（みずはりづき）」と呼ばれることもあります。「水無月」の「無」は「の」の意味とされ「水の月」と解釈され、梅雨の季節に水との関わりを意識する月とされているそうです。

■ 7月：文月（ふみづき）

短冊に歌や願いを書いて笹に飾る七夕の風習にちなみ、詩や書を奉納する意味から「文被月（ふみひらきづき）」と呼ばれることもあります。また、稲の穂が膨らむことを意味する「穂含月（ほふみづき）」が転じたとも言われ、学びや収穫を思わせる月とされているそうです。

■ 8月：葉月（はづき）

木々の葉が落ちはじめる「葉落ち月（はおちづき）」が由来とされます。夏の盛りを越え、秋の気配を感じる頃で、自然の移ろいを身近に感じる月とされているそうです。

■ 9月：長月（ながつき）

「夜長月（よながつき）」が略されたものとされ、秋の夜が長くなる時期に由来すると言われています。虫の音や月明かりに親しみながら、しみじみとした秋の情緒を味わう月とされているそうです。

■ 10月：神無月（かんなづき）

一般には「神様が出雲に集まるため、国々から神がいなくなる月」とされますが、出雲では逆に「神在月（かみありづき）」と言われているそうです。収穫を終えて神に感謝する祭りが行われる頃で、人と神とのつながりを感じる月とされているそうです。

■ 11月：霜月（しもつき）

霜が降り始める「霜降月（しもふりづき）」に由来すると言われています。冬の訪れを感じながら、収穫後の生活を整える月とされているそうです。

■ 12月：師走（しわす）

「師（僧侶）が東西を忙しく駆け回る月」と言われています。また、「年果つ（としはつ）」つまり、年の終わりが語源とする説もあります。新年を迎えるための準備に追われる月として、人々の慌ただしい暮らしを映す名前とされているそうです。

うるう年

うるう年とは、暦（カレンダー）と実際の地球の公転周期のずれを調整するための年のことです。地球が太陽の周りを一周するのにかかる時間はおよそ365日と6時間かかります。この「約6時間」のずれをそのままにしておくと、季節と日付が少しずつずれてしまいます。そこで、4年に1度、2月に1日を加えて29日にすることで調整した年を「うるう年」と呼びます。

ただし、単純に4年ごとにうるう年にすると微妙な誤差が残るため、100で割り切れる年は平年とし、さらに400で割り切れる年はうるう年にするルールもあります。つまり、4年に一度やってきて、100年に一度はやってこず、400年に一度だけ戻ってくると考えるとイメージしやすいかもしれません。

うるう年の漢字について

閏年の「閏（うるう）」の漢字には「余分」「余り」の意味があります。中国由来の会意文字で「門」と「王」を組み合わせた形は、王が門の内から政務を行わず静養する様子を表し、暦に余分な月日を挿入する行為に例えられたと言われています。日本で「うるう」と読むようになったのは、日本語の「潤（うるお）う」に似ていることから当てられたという説があります。

うるう年が2月にある理由

現代の暦の元となった古代ローマの暦で、ユリウス・カエサルが制定したユリウス暦において、1年の最後の月であった2月に日数の調整がなされていたためだそうです。2月だけ28日しかない理由も同じく、当時の暦の名残と言われています。

年を取るタイミング

日本では、年齢の数え方や年齢が変わるタイミングを定めた「年齢計算に関する法律」があります。生まれた日を0歳として、1年ごとに1歳ずつ増えるのが基本です。面白いのは、法律上では誕生日の前日に年齢が加算されるとされている点です。そのため、誕生日を迎える少し前に「もうすぐ年を取る」と意識するのも、法律に沿った考え方なのだそうです。

2月29日生まれの人は、うるう年でない年には2月28日の24時に1歳年をとります。「みなし誕生日」と呼ばれ、年齢の計算ではこのタイミングが基準となります。運転免許証の有効期限は誕生日の前後1ヶ月と定められており、平年には2月28日とみなされるため、有効期限の末日は3月28日となるそうです。

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